2017年12月冬・編集発行・野尻湖フォーラム

童話館だより(1)

黒姫童話館館長 北沢彰利

 私は、今住んでいる飯田の地から、中央道、長野道、上信越道と二百キロの高速道を走り、黒姫童話館へ通っています。

 長野県の南北を縦断するこの通勤路では、いくつものトンネルを抜けて行きますが、最後のトンネルは、薬師岳トンネルです。

 2320メートルのトンネルを抜けると、それまでの風景は一変します。里の家並みが消え、黒姫と妙高の山容が飛び込んでくるのです。何度見ても、同じ感動があります。体ごと、異空間に運び込まれたような不思議な感覚になるのです。トンネルと一変する景観が、ファンタジーへの入り口のような効果をもたらしているのでしょうか。

 童話館に着くと、この風景はさらに迫力を増します。木々も見分けられるほどに山が迫り、その裾に緑の草原が広がります。車を降りると、しばらくはその風景に立ち尽くします。

 通い慣れた私でさえそうなのです。お客様は尚更です。山に目を上げず入り口に急いだお客様を、見たことはありません。子どもさんはもちろんですが、大人の方が、歓声をあげます。そうして、しばらくは、その景観に見とれるのです。町を離れ、広大な山と草原の景色に包まれると、人は自分が自然に生かされる小さな命であることに、戻るのかも知れません。

 童話館の一番の売りは、この景観です。この景観があるからこそ、ミヒャエル・エンデの『モモ』の世界へとつながり、松谷みよ子のお話の中へ、歩み入ることができるのです。エンデが、この地を作品の永遠の保管の地にと自ら選んだ理由が、この景観にあります。エンデが世界中の中から「ファンタージエン」として選んだ国は、黒姫なのです。 ⟩⟩⟩

 


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