前田道雄(陽道)遺作選集によせて

 

   「まだ何十年も生きると思うなり 楽しみだ」(2007年3月 陽道 94歳)

 2008年(平成20年)1月28日、夫 道雄は94年10ヶ月の天寿を全ういたしました。前夜、自宅にて眠りにつき、翌日そのまま静かに息を引き取りました。最後の一年間は入退院を繰り返しながらも精力的に絵筆をとり、130点余りの作品を残しております。その中から絶筆を含め、12点を選び「遺作選集」といたしました。

  「字を書いて 絵を画いて 印を掘って 文を綴った 九十余年の作品だ」
  (2007年3月 陽道 94歳)

 書は10代の頃から本格的に習い始め、昭和18年に私と結婚いたしました頃には、すでに盛んに絵も描いておりました。こうして若い頃から書や絵画、また最近では文筆にも興味を持ち、創作を生涯楽しんでまいりました。特に、40年前から毎年訪れていた長野県野尻湖の山小屋で描いた北信濃の山々や湖、町田能ヶ谷町の自宅周辺の風景、好きな言葉や自作のうたを書き添えた書画などを数多く残しております。
 また、自身の人生哲学として淘宮学(天源学の流れをくむ江戸時代後期に成立した学問)を勉強し、淘宮での号である「陽道」名で4冊の本も執筆し、上梓いたしております。
 この遺作選集はこれら創作活動の集大成といえます。自由で明るい人生最後の一年間の作品です。
 亡くなる直前には、次のような句を残しました。

   「厳冬も いよいよとなり 下手な句を」(2008年1月19日)
   「句をかくも 冬この一句 筆もてぬ」(2008年1月19日)

 道雄は大正、昭和、平成と三つの時代を生き続けることができましたが、これもたくさんの友人の皆様に囲まれ、支えていただいた賜物と感謝しております。
 お送りさせていただきました「遺作選集」、ご高覧いただき、作品を通して道雄を思い出してくださるなら幸いに思います。長い間お世話になりました。本人に代わり、厚くお礼申し上げます。ありがとうございます。
 

2008年(平成20年)3月21日   前田久布