野尻 赤川産廃最終処分場計画のその後
●説明会開催の依頼書
平成19年10月2日、信濃町総合会館において(株)高見澤と(株)上田土木コンサルタントによる産業廃棄物処分場計画の説明会が開かれた(前号に詳細記事)。安全・安心を言葉にしながら、データもはっきりとした根拠も示されず、内容的に不備の多い説明会だったと言わざるを得ない。住民からは、建設の許可申請に必要な「説明会」を開いたという事実を整えるだけのもので、「説明会とは認められない」との声が多く聞かれた。その場であがった疑問や質問、意見に対して「後に文書で陳謝・回答する」と述べたが、現在までに住民には何の回答も届いていない。
あれから7ヵ月、(株)高見澤より平成20年5月19日付けで、野尻区長宛に野尻区民対象の「説明会の開催について(依頼)」の文書が届いた。「6月10日頃までに説明会を開催したいので、会場の手配と区民への周知をお願いしたい。日程を決め、5月末までに回答してほしい」という内容だった。
野尻区では、産廃対策委員会を召集して協議し、区民の大部分は農繁期、そして観光ハイシーズンを迎え、今回の申し出に応対する時間的な余裕がない旨の回答をしている。同時に産廃対策委員会では、区として今後の対策等も検討された。
●住民の動き
昨年の説明会以後初めての(株)高見澤から地域住民への接触となる「依頼書」が届いたことにより、住民の間でも危機感が増した。さざなみ爽風塾婦人部から「お願い書」が野尻区に提出された。
内容(抜粋)
- 地方事務所にて高見澤の計画書を取得。
- 専門家 関口氏と野尻区ないしは町との対策会の開催及び専門家による意見書を作成してもらうよう町に交渉。
- 鳥類調査
2008年4月19・20日、鳥類専門家と処分場建設予定地の鳥類の予備調査を行い、オオタカ(幼鳥)、ノスリなどの飛翔を確認した。引き続き調査を野尻区ないしは町で行ってほしい。 - 水質調査
建設予定地とその周囲5キロメートルにつき、水系調査を行なってほしい。
さらに、早急な対策が必要と、同メンバーは6月6日松木町長と会見し、要望を伝えた。松木町長からは、
- 産廃に反対する気持ちは、これまでと変っていない。
- 町産廃対策委員会も定期的に行なっており、調査も独自にしている。
- 1月に(株)高見澤が、説明会では入れないと断言した13号廃棄物の入ったままの計画書を持って役場を訪れた。指摘した。
- 説明会の時に町へ提出すると言った「回答の文書」は届いていない。町対策委員会が出した質問状には回答が来ている。
- 町民対象ということで、野尻区宛てに届いた「説明会開催の依頼書」と同じものが町にもきた。「周知・手配等、町でやるべきものではない」ときっぱり断った。
など話が出された。その後、正式に、松木町長と町産廃対策委員会宛てに、鳥類・水系の調査依頼、町産廃対策委員会との懇談会、ごみ弁連会長でもある梶山正三弁護士の講演会開催の依頼、の内容で「お願い書」が提出された。
6月25日、さざなみ爽風塾と町産廃対策委員会との懇談会が設けられた。「お願い書」に沿って話は進められ、
- 水系調査は町でやる。
- 鳥類の調査については、検討する。住民で動いてはどうか。
- 梶山弁護士の講演会については検討する。
- 町との懇談は、申し入れてくれれば受ける。
などの返答がなされた。
6月25日に県へ(株)高見澤が事業計画書を出すとの情報が入り、26日、野尻区産廃対策委員会、さざなみ爽風塾メンバーが地方事務所へ計画書取得に出向いたが、計画書の不備が数点見つかり、持ち帰ってもらったため受理していないとのことである。以下、地方事務所での質問と回答。
Q:取り扱いは新条例になるのか旧条例か。
A:来年3月までの受理については旧条例で対応する。移行期の取り扱いについては、今県廃棄物対策課で見解をまとめているところ。必ずしも同意書がなければ事業計画書を受け取れないというものではない。
Q:概要書以後、計画書のようなものは出たか。
A:出ていないが、個別な報告は入っている。
Q:昨年のものは説明会になっていない、という話は。
A:聞いている程度。説明会は開かれたと認識している。
Q:(県廃棄物課で)現場の地形について。また、高見澤の対応について。
A:現場は知っている。川など細かいチェックをする。
業者は現状はどうかという調査をする義務がある。業者が専門の会社へ頼まなくてはならない。水質、土質、地下水の深さを調べている。調査には1年以上かかる。県ではその内容を専門家がチェックする。また地下水の流れなど調査をすることになっている。大気、水、地質を調査する。
高見澤が過去にしたことを思えば 地元が不安に思うのはよくわかる。高見澤には事業者としてもっと地元に説明するべきではないかと言っている。以前の説明会のときの住民からの質問に答えることから始めるように言う。高見澤に誠意を持って付き合うように伝える。
●廃棄物の新条例が公布される
平成20年2月の県議会において、村井知事の提出した「廃棄物の適正な処理の確保に関する条例案」が可決され、同3月24日に公布された。
平成15年から3名のアドバイザーを委託して廃棄物の条例制定に取り組み、平成18年2月に田中前知事が提案した「信州廃棄物の発生抑制と良好な環境の確保に関する条例案」は継続審議のまま、9月に県政が替わり、18年9月議会において廃案となった。この旧条例案は、県内で条例成立のための署名運動も起こるなど、問題を抱えた地の住民にとっては待ち望んでいた条例といえるものだった。発生抑制・資源化計画、また廃棄物処理に関して環境や健康面での調査や監視活動をする制度(県民環境協議会)や、自分たちの地域は自分たちで守ろうとする環境モニタリング制度もあった。不法投棄・脱法行為を未然に防ぐための仕組みをも盛り込まれていた。条例名のとおり、豊かな環境を守り、県民の健康を守ることに主体を置いた条例案だった。
今回決まった村井県政の新条例は、住民の健康や環境を守る視点・発生抑制・住民参加の仕組みなどがなくなっている。ごみ問題を、減らす方向からではなく、処理することへ観点を移したものになっている。県の指導要綱にあった「住民同意書」の添付も必要がなくなり、題名のとおり、「廃棄物の適正な処理の確保」=「処分場の確保」のための条例ともとれる。
施行は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において規則で定める日」となっており、平成21年3月23日以前になる。
信濃町では7月15日に県によるこの新条例の説明会を予定している。
(文責 編集部)
-- 報告に寄せて --
17年以上もの長期にわたり、私たち住民から安寧な生活を奪ってきたこの処分場建設計画。赤川地区での同意が取れず、野尻区を同意の必要な区として業者が動き始めて7年以上の月日が経つ。
この問題が私たちの知るところとなった時、赤川地区の総代、今は亡きT氏を尋ねた。 彼は、計画されている横の土地所有者でもある。長年、消防団長で県に貢献されていたこともある。その消防団長の時に原因不明の発火があり、その地に行った時のことを話された。その地は、産業廃棄物の埋め立てが終わって所有者が転々としている土地で、誰も責任をとらない、結局被害を被るのは土地周辺の住民であると話された。そして、高見澤の処分場計画予定地は、湧き水が豊かであり、田を耕していてのどが渇くと、この湧き水がのどを潤してくれたと話された。そして、きっぱりと「私はこの先祖代々伝わってきたこの自然豊かな土地を子孫に残したい、ただそれだけです」とおっしゃった。強い眼の光と意志の強い言葉に感動した。
その後、様々なことを調べていくうちに、どんどんその深い暗闇に驚きと怒りが込み上げてきた。
何年か前に梶山正三弁護士の講演を何度か聴きに行ったことがある。その中での「ゴミマフィア」という言葉がしっかり耳に残っている。ゴミによって儲かる人たち・・・廃棄物処理業者、プラントメーカーやゼネコン、製造事業者、流通業者、土木業者など。そして、官僚、政治家、学者、御用学者、コンサルタント・・・など。その構図がこの小さな区の中にもあると思うとやりきれない思いが込み上げてくる。
昨年の業者説明会、質問を強行に打ち切っての終了に、私は駆け寄って高見澤の専務に質問した。
筆者:「この計画に関して動いている方に企業としては当然報酬を支払っていると思うが、その方は信濃町にいるか」
専務:「契約社員として報酬は支払っているが、個人情報なので名前はあかせない」
筆者:「信濃町に住んでいる方か」
専務:「そうだ」
この処分場建設もまた、おいしいおやつなのかと思うとこれまたやりきれない思いが込み上げてくる。 疲れきって、足が止まってしまうこともあるが、住民としてのあきらめきれない思いを着実に形として表さなければ、子や孫たちに申し訳ない・・・そんな思いがまた足を進める。
「廃棄物の適正な処理の確保に関する条例」及びその運用の基本的考え方について、6月20日までに県内4地区で説明会が開催されている。施行に向けての準備が進められている。これを睨んでの高見澤の動きであろうということで、ゆっくりと歩いているわけにはいかなくなってきている。さて、どうしたものか・・・
(さざなみ爽風塾 H)