2018年12月冬・編集発行・野尻湖フォーラム

童話館だより(3)
童話館と信州児童文学会

黒姫童話館館長 北沢彰利

とうげの旗

 芸術を至上とし、子どもの持つ才を開花させんとした白樺派教師の非現実的とも言える教育運動は衰退していきましたが、その精神は、他県とは一線を画す信州教育として残りました。

 学校現場では、『歎異抄』など日本の古典哲学から『ソクラテスの弁明』などのギリシャ哲学まで、若い教師を巻き込んでの読み合わせ会が行われていました。

 「教育は、単なる知識技能の伝達ではない。人を育てることなのだ。そのためには、まず自分が生涯にわたって育たなくとは。」と教えられていました。

 美術や書に打ち込む教師も、尊敬を集めていました。文学の読み聞かせや児童演劇に情熱を燃やす教師も、認められていたのです。

 そんな風土を背景として、教師会員の多かった信州児童文学会の『とうげの旗』も、信州の地に根を張っていったのです。

 近年の活字文化衰退と共に、少年少女の雑誌『とうげの旗』は、平成24年終刊となりましたが、現在も同人誌の発行を続け、会員は県内外に62名を有しています。全国でも、まれにみる児童文学の里なのです。

 童話館建設を思い立った信濃町が、『ムーミン』の翻訳者山村静を介して信州児童文学会に協力要請をしたのも、こうした活動が目に入ったからと思われます。  ⟩⟩⟩

 


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