2018年12月冬・編集発行・野尻湖フォーラム

栗飯

文と写真 小林力

 母方の叔父の勧めで妹を施設にお願いした。お正月に帰ってきたが、以前のように楽しく笑わなくなった。一人で寂しいのだと思うから家に連れ戻したい。家は父が建てた家なので安心して住んでいるが、色々考えるといちばん先にお金が足りない。兄も働いてくれれば良いのだが……。

 そんな話の経過から、一人の先生がこんなアドバイスをした。
「気分一新で、お父さんの家を処分して、そのお金でアパートを借りて3人で生活をしてはどうかね」
 18歳の少女の冷静な答えに、アドバイザーの先生が声を潤ませながら
「僕にはあなたの考えている程の知恵がなかった。恥ずかしい、ごめんなさい」
と言いながら涙していたのだろう。

 18歳の彼女はこんなことを話していた。
「叔父からも同じことを言われました。でも父が残してくれた家は兄弟3人の財産です。生まれ育った故郷です。家をお金に変えれば3人の故郷がなくなってしまいます。家があればいつか3人が結婚してバラバラになっても一緒に集まる場所になります。両親や兄弟の楽しかった思い出の缶詰のような家ですから、叔父にもはっきりと断りました。
 家をお金に変えれば妹が施設を卒業しても帰る家も故郷もなくなってしまいます。家をお金に変えれば兄弟の故郷がなくなり、お金はアパートの家賃になってなくなってしまいます。
 何とか頑張って生きていきたい。ただ、兄が早く元気になって働いてくれればいいのですが……」
「失礼ですが、今のあなたの楽しみは何ですか」
「はい、今、楽しみは何もありません。でも今度、妹が施設から帰ってきた時に、栗御飯を作って3人で食べようって、妹が好きな御飯ですから約束をしたのです。それが楽しみです」
「栗御飯なんて私はよくわからないけど、あなたは作れるのですか」  ⟩⟩⟩

 


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