2018年12月冬・編集発行・野尻湖フォーラム

栗飯

文と写真 小林力

「はい作れます。今は家には栗の実はないのですが、いつでも食べられるように栗の実を保存する方法も知っています」
「……」
「小さい頃に、おばあちゃんからの話をお母さんに教わりました。少し水分を含んだ砂に埋め込んで寒いところに置いて、乾燥させないように、芽を出させないように気をつけていれば栗の実は生きているんだそうです。やってみます。御飯はお母さんと一緒に作ったので作れます」
「……」
「妹が施設から帰ってきた時に二人で作りたいです。妹が好きな御飯ですし、兄も好きな御飯です。3人で食べようと思っています」
「妹さんが帰ってくるのが待ち遠しいですね」
「はい」
「栗の実のできるころに帰って来れると良いですね」
「はい」

 誰も来なくなった遅い窓口でラジオを聞きながら、私はこの18歳の少女が大切にしている生まれ育った故郷はどんなに素晴らしい郷なのか訪ねてみたい、この少女に会ってみたいという思いに駆られた。  ⟩⟩⟩

 


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